直感とドレイファス兄弟の技術習得モデル

あらゆるゲームにおいて直感を選ぶのか論理的思考を選ぶのかという問題は存在します。

ポーカーにおても、負けていると瞬時に感じたが、相手のハンドレンジから想定すると勝っている可能性のほうが高い、など、論理的に考えた結果と直感が相反することがあります。

将棋の羽生名人も「直感の7割は正しい」と言っているそうです。

では直感とはなんなのでしょうか?

直感とはなんぞや?

勘、第六感、セブンセンシズ、いろいろな言い方がありますが、人知を超えた能力なのでしょうか。

そうではありません。

直感とは「無意識の内に過去の経験を元に瞬時に判断した結論」です。

過去の経験、知識、それら全てを総合して考えて導き出された無意識の感覚が直感です。

つまり、経験がなく、知識もない人が感じる直感はまったくアテになりません。

2分の1の確率であれば、例え当てずっぽうの勘でも正解を引く確率は50%でしょう。

しかし羽生さんの言うように直感による正解を70%まで引き上げるためには、膨大な経験と知識が必要なのです。

つまり

玄人の直感>論理的思考>素人の直感

ということができます。

直感を養うためには、たくさんの経験が必要ですが、論理的思考はある程度勉強することで身につきます。

ルールに従って判断していけばいいだけです。

ポーカーで言うと、単純にオッズに従ってプレイする、というのが論理的なプレイと言えます。

では自分の直感がどの程度の精度で合っているのか、どうやって判断すればいいのでしょうか?

もちろん、直感で行動した結果を記録していけばある程度の精度は測ることができそうですが、なかなかそんなことをしている人はいないでしょう。

ドレイファス兄弟の技術習得モデル

直感の精度の指標となる考え方で、ドレイファス兄弟の技術習得モデルというものがあります。

1970年代のドレイファス兄弟による人間の技能の習得・極める過程についての研究結果のことです。

彼らによる人間の技能の習得・極める過程についての研究結果で、研究対象は、民間航空会社のパイロット、チェスの名人などのある分野の技術にきわめて高いレベルの習熟度を示した人々です。

技能ごとに評価するので、個人の生来持つ特性・才能ではないとのことです。

ドレイファス兄弟の技術習得モデルは5段階あり

  1. 初心者
  2. 中級者
  3. 上級者
  4. 熟練者
  5. 達人

と別れます。

各段階を詳しく書くと

初心者:レシピが必要

状況に左右されないルール(レシピ)を与えれば、それなりに仕事を行う事ができる。しかし全く知識も経験も不足している為、想定外の事が起きると、パニックになり、全く対処できなくなる。

中級者:全体像を見たがらない

ほんの少しだけ決まったルールから離れて、独力で仕事にあたることができるが、問題処理には手こずる。情報を手早く入手したがるが、理論・原則は望まない。

上級者:問題解決ができる

問題を探し出し解決することができる。但し細部のどの部分に焦点を合わせるべきかの決定にはさらなる経験が必要。このレベルの人を形容する言葉としては「指導力がある」「臨機応変な対応が可能」など。

熟練者:自己補正が可能

十分な経験と判断力を備える。自らを振り返り、次回のパフォーマンスを改善する為に、自らの取り組みを修正する事ができる。 何が失敗につながるか分かる。

達人:直感で動く

絶えずよりよい方法を模索する。膨大な経験から、状況に合わせたピッタリな方法を引き出す。膨大な経験と知識に裏打ちされた情報を基に、直感で行動する。本質に関係のない部分と重要な部分の区別が無意識下でできる。

つまり簡潔に書くと

  1. 初心者=ルール(レシピ)
  2. 中級者=全体像を見たがらない
  3. 上級者=問題解決ができる
  4. 熟練者=自己補正が可能
  5. 達人=直感で動く

となります。

ルールと感覚の境界

5つの段階の中で、「初級者・中級者・上級者」と、「熟練者・達人」の間には大きな差があります。

上級者までは、平たく言うとルール(マニュアル)を覚え、それを適用していくレベルの違いでしかありません。

熟練者になると、問題取り巻く大きな概念を全体像として理解することが可能になり、その中での経験から、自分のパフォーマンスを改善できるようになります。

達人は、熟練者が行えるようなことを、直感的に瞬時に判断することができるようになります。

「なぜだかわからないがそう思った」というのは達人ならではの感覚のようです。

達人に達するには、だいたいどのような分野でも10年間の本気の努力が必要と言われています。ただ単に取り組むだけではダメなのです。

しかしオンラインポーカーが普及し、膨大なハンド数を短時間でこなすことができるようになった現在、ポーカーにおいて達人になるために必要な時間は大幅に短くなっているかもしれません。

また、熟練者が作成したマニュアルを初級者に適用すると初級者は大幅にパフォーマンスが改善されますが、達人がそのマニュアルに従うと、パフォーマンスが低下する、という例も存在するようです。

達人はルールに縛られないほうが、パフォーマンスを発揮するということですね。

思い込みは危険

気をつけなければいけないのは、未熟な人が「自分は達人である」と思い込む傾向もあるそうです。自分の未熟さに気づいていないパターンです。

ポーカーの世界で達人の域に達している人はどの程度いるのでしょうか。

トム・ドワン、フィル・アイビー、フィル・ヘルミュースJrなどの一流プレイヤーは達人と言えそうです。

このドレイファスモデルによれば、直感で正しく行動できるのは達人の域に達した人しかできないことであり、それ以外の段階の人は、直感よりも論理的思考に頼ったほうが正解する確率は高いと言えます。

もちろん中級者~熟練者の感じる直感が全て間違っているというわけではありません。正しいこともあるでしょう。しかし自分が達人で無い限り、その直感が正しいかどうかを裏付ける論理的な根拠を考えるべきです。

そのためにも、重要な局面では多少の時間を使っても、しっかりと論理的に考えて正しい決断を下すようにしたいものです。

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